歌舞伎や浪曲の『白井権八と小紫』で知られる悲劇の花魁

鈴ヶ森の露と消えた権八の報せが吉原に届いたのは、木枯らしが格子を鳴らす宵のことでした。

三浦屋の奥、華やかな灯りの届かぬ一室で、小紫はただ一人、鏡の前に座り込んでおりました。辻斬りの罪で処刑された男。世間が凶賊と罵ろうとも、彼が自分だけに見せてくれた不器用な情けの温もりを、その胸は決して忘れてはおりません。

「あの世まで、連れて往ってくださる約束でしたのに……」

夜が更け、廓の騒めきが寝静まる頃、小紫は豪奢な衣を脱ぎ捨て、黒縮緬の羽織を深く被ると、音もなく吉原を抜け出しました。

向かった先は、権八の骸が葬られた目黒の東軒寺。

霜の降りた墓前に辿り着いた小紫は、まだ土の新しい冷たい墓石にすがりつき、氷のような手を合わせました。

「遅くなりまして、申し訳ございませぬ。ひとりで逝かせては、寂しかろうと追うてまいりました」

静まり返る境内、懐から取り出した守り刀の刃が、寒月を受けて青白く光ります。迷いなく喉元を貫いた一閃とともに、鮮やかな血が白い霜を紅く染め上げました。

翌朝、寺の者が目にしたのは、寄り添うように重なって倒れる小紫の亡骸でした。

哀れんだ人々は二人を同じ穴に葬り、そこにはいつしか「比翼塚」と刻まれた名が残されたと伝わります。



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