伝説の名妓 勝山太夫

元々は岡場所(湯女風呂)のスターでしたが、吉原へ引き取られてトップ太夫へ上り詰めた人物です。
男装の侍風ファッションで街を歩くなど非常に個性的で、日本髪の代表格である「勝山髷(丸髷の原型)」を創出したトレンドセッターでもありました。

小話「勝山太夫の男伊達」

吉原の仲之町がざわめいたのは、暮れ六つの鐘が鳴り響いた頃合いのことでございました。

紅を差した艶やかな唇に、すらりと通った鼻筋。しかし身にまとうは絢爛な打掛ではなく、黒羽織に仙台平の袴という、絵に描いたような若侍の男装でございます。腰には朱鞘の脇差を差し、雪駄を鳴らして堂々と闊歩するその姿に、すれ違う武士も思わず足を止め、町娘たちは頬を染めて見惚れるばかり。

この御仁こそ、湯女風呂という泥の底から己の才覚一つで吉原の頂点へと駆け上がった当代一の看板、勝山太夫。

「太夫、いくらなんでも侍姿で練り歩くなど、前代未聞の破天荒にござりますぞ」

顔馴染みの通人が呆れ半分、感嘆半分で声をかけると、勝山は涼しげな目元をふっと緩め、結い上げたばかりの見事な髷を指先で軽くなぞってみせました。武家髷の端正さを取り入れつつ、女の柔らかな色気を宿したその髪形は、江戸中の女たちがこぞって真似をしたがる新しい流行の兆しを放っております。

「おやおや、野暮をお言いじゃないよ。湯女上がりの私を『格が違う』と陰で囁くお歴々に、少しばかり男の度胸をお見せしたまでさ。着物一枚で人の値打ちが揺らぐなら、いっそ男の真似事をして、男どもを従えて歩くほうが痛快じゃないかい」

勝山がからりと笑って煙管をくゆらせると、紫煙の向こうで夕陽がその横顔を黄金色に染め抜きました。型にはまることを笑い飛ばし、自ら掟を創り出す。その背中に漂ういなせな気風に、吉原中の誰もがただただ平伏するほかございませんでした。

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